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<繊研新聞社>社長インタビュー

繊研新聞
【パーソン】Sホールディングス社長 燕泳静さん ファッションを盛り上げる挑戦を続ける
Sホールディングス・燕社長

レディスを中心としたOEM・ODM(相手先ブランドによる設計・生産)主力のSホールディングス(東京)は10月、ファッション系ライブコマースモール「1899モール」を立ち上げた。各店舗にライブコマース機能を提供する新しいスタイルのモールで、出足の反応は良く、さらに機能を充実させていく。グループ企業のEC・通信販売事業のアビトーキョーは、オリジナルのDtoC(メーカー直販)ブランド「アビトーキョー」などを販売、3年目で月商3億円を超える規模に成長するなど時流に対応した事業拡大で、「ファッション業界を盛り上げていきたい」という。

ファッション系ライブコマースで市場を作る

――1899モールのきっかけは。

 EC販売に続く事業拡大を模索していたなか、中国企業の友人から「ライブコマースが盛り上がっている」と聞きました。中国のライブコマース市場は19年が約7兆円、20年約13兆円、21年は約34兆円規模になると推定されています。ですが、日本ではライブコマースがまだ盛んではなく、システムも構築されていません。待っていては何も始まらないので、日本での市場を作り、日本のファッション業界を盛り上げていくために、通販と一体となったファッション系のライブコマースを立ち上げました。

 初年度は日本国内向けで行い、ライブコマースに慣れていただいた後、日本ブランドを組織して中国への越境ECを開始する予定です。そのため、モール名は中国でもなじみやすい名前として1899としました。ちなみにアリババは1688です。99は中国で天と地との意味があり、1899は〝一富天地〟となります。モールに出店することで、ブランドは自分の富をつかみ、お客様はそこでハッピーになれる商品が購買できるようにとの思いを込めています。

 ――モールの特徴は。

 ファッション系の専門モールで、各店舗にライブコマース機能を提供し、お客様により質感やサイズ感などを分かりやすく伝えられ、購入を促進していきます。ターゲット構成はレディスが約80%、メンズ15%、キッズ5%で、年齢は25~35歳が45%、10~20代35%に設定しています。取り扱いアイテムはアパレルを中心にコスメやアクセサリー、雑貨、インテリアなどファッションに関連するもので、中国ブランドや韓国のコスメブランドなど日本市場を狙う越境ECのブランドも出店します。

 現在、登録中のブランドも含めて約50ほどが決まっています。自社の「アビトーキョー」「エミプラス」などのほか、「レイカズン」「ブージュルード」「プードゥドゥ」「ラヴィジュール」、モッズヘアーなどのコスメ関連、フランスや中国、韓国のブランドなどで、今後も増えていく予定です。

 ――モールの強みや競争力は。

 現在、日本でライブコマースが盛んでない原因の一つは良いライバーさんがいないからです。当社はファッションに長じたライバーを日本と中国で組織化しています。ですが、当社もモールを継続し、より良いものにしていくためにはお客様に伝えるライバーの存在は重要で、解決していく課題です。そこで、東京のファッション専門校と一緒に組み、ファッションライバー育成としてカリキュラムを作っています。現在、ショップチャンネルやファッションユーチューバーなどで活躍している人を講師に招き、講座を来年4月から開講の予定です。

 モールの大きな差別化はライブコマース機能ですが、会員向けにはAI(人工知能)を駆使したサービスを付加しています。スキンケアチェックやパーソナルカラー診断では国内外のブランドやサイトと提携し、診断結果に基づいたお薦めアイテムを紹介します。また、女性に関心が高い今日のラッキーなカラーやアイテム、恋愛などの占い機能もあります。単なるモールではなく、多様なサービスを提供することで、便利でアクセスしたくなるようなモールを目指しています。今後はバーチャル試着機能を加える予定ですが、現在は満足できるシステムがないため、研究中です。

 ――今後のビジョンは。

 目標は3年間で、流通総額300億円、店舗数2300、会員数500万人、扱い商品100万点です。そのためには、越境ECも含めシステムやサービスをより成熟させていきます。同時にプロモーションを仕掛け、有名なユーチューバーやインフルエンサーなどと組んだ情報発信を強化します。ユーチューブへのCMも行います。また今回、アンバサダーにはタレントでユーチューバーのてんちむさんを迎え、プロデュースするオリジナルブランド「ベルリッチ」も立ち上げて、1899モールのみで販売します。

 モールオープンでは、2日間で4000人を超える会員登録があり、2日間の売り上げは1000万円を超えました。今後、皆さんの力も借りて、ファッションが売れていない現状から、売れるような仕組みを作っていきたいと思っています。日本最大級のライブコマース通販サイトを目指していきます。

3年目でEC売上高30億円を見込む

 ――EC販売が好調。

 EC販売は19年、オリジナルのアビトーキョーなどをゾゾタウンに出店し、本格的にスタートしました。初年度の売上高目標は3000万円でしたが、特にデザイン性が高く値頃なワンピースがヒットし、売上高は約1億円と目標を大幅に超えました。2年目の売上高は約17億円で、3年目の21年5月には過去最高の月商3億2000万円に成長。その後はハンドステッチ風フリル配色のニットプルオーバーなどが好調で、月商3億5000万円で推移しています。3年目の22年2月期のEC事業売上高は前期比76%増の30億円が見えてきました。

 アビトーキョーは中心客層が20~40代で、特にワンピースは凝りすぎずにシンプル過ぎないデザイン性で、1枚でも重ね着でも着こなせるような商品に、何着も購入されるお客様が目立ちます。企画・生産企業の強みとして、パターンにはこだわりを持っており、リピーターも多いですね。中心価格はワンピース6000円前後、ジャケット8000円前後と価格とのバランスも購買につながっているようです。アビトーキョーより若い層を狙ったオリジナル「エミプラス」は10年春に立ち上げており、客層の広がりが売り上げにつながっています。商品は私自身やデザイナーが試着するなどで、お客様に満足度が高い商品を届けるようにしています。現在、返品率は1%以下ですが、まだまだ満足はしていません。さらにお客様の満足度を高め、ファンを増やしていきます。

 ――創業からこれまでの道のりは。

 もともと日本のOEM・ODM企業で、営業を担当していました。企画の経験はありませんでしたが、それまでの中国工場とのお付き合い、業界とのコミュケーションや信頼関係などを生かしてOEM・ODM企業として独立しました。初めは1型で、ニットのかぎ針セーター50枚からのスタートです。徐々に軌道に乗りつつあったのですが、円安の影響や11年の東日本大震災などの環境変化もあり、単に企画・生産だけでは先行きが見通せないと思い、オリジナルブランドの製作とEC事業に参入しました。

 オリジナルブランドでは企画担当を数人採用し、中国の生産背景を生かしたもの作りに注力し、市場や購買動向をつかみながら毎日必ず1点以上の新作をアップする仕組みを構築しました。物作りには自信がありましたが、ネット販売には苦労しました。サイト上で見せる商品の撮影や見せ方など、これまで経験がなかったからです。そのため、撮影スタジオを新設し、人材も採用するなどで徐々に精度があがり、アクセス数も伸びてきました。

 ――事業への思いは。

 中国で生まれ、日本は第二の故郷です。両国の懸け橋になれればとの思いがあります。社名のSには最高、スピード、スマイルの三つの意味を込めています。ファッションで世界がつながり、豊かなライフスタイルになるようにお客様に最高に満足いただき、世の中に「スマイル」を届けていきたいと思っています。

 新型コロナなどで、消費者のライフスタイルは変化し、ファッション消費も低迷しています。ですが、どんな時代でもファッションは必要だと思っています。今後はファッションとAI、ITを融合した1899モールを始め、ファッションブランドの育成や物作り、テクノロジーなどにさらに注力し、より便利でより安心、より快適で、なくてはならない企業を目指していきます。

 1899モールではライバーさんの評価などを基にした表彰などのイベントも行っていきたいと思っています。新型コロナでイベントが実施しにくい環境ですが、多彩なイベントを計画し、ファッションを盛り上げていきたい。多様な事業への取り組みで、人材の確保も重要な課題で、採用活動もしています。企業環境を整え、適材適所の人材を配置しながら、さらに飛躍していきます。